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  年金運用
年金運用と貸株取引

 
運用効率化の実現に向け、貸株取引を実施する年金基金が増加している。国内貸株市場の拡大や、貸株を商品ラインアップに加える運用機関・資産管理機関の増加により、身近な存在となった貸株取引について紹介する。

一連の空売り規制で注目を集めた貸株の市場規模が着実に拡大している(図表1)。国内市場が整備された1998年以降、オフショアマーケットを通じた取引の国内への還流や、持ち合い解消目的の特約貸株(株価が一定水準を上回った場合に、貸し付けた株式の代わりに現金で返済される貸借契約)などの増加要因もあるが、年金資産が貸し手として参入し始めたことも、その背景として無視し得ないだろう。厚生年金基金連合会の「厚生年金基金資産運用実態調査−2000年度決算−」によれば、全体の約3割に相当する500近くの基金が、株式を含めた有価証券貸付を実施済みとのことである。
   
図表1
規模拡大する国内貸株市場
(注)左図は、日本証券業協会が証券会社に報告義務を課している証券会社経由の株券貸借取引を集計した月末残高の時系列推移。
この他に、生保などが直接実施する貸株やオフショア市場経由での貸株が、数兆円規模あるといわれる。
   

大規模年金の株式運用で、パッシブコア戦略が主流になったことも、貸株取引参加を促進させている。従来の貸し手の中心は、生命保険会社や海外機関投資家の一部であったが、議決権を失うこと(配当金や新株などは貸し手に返還されるが、議決権は放棄せざるを得ない)に消極的な生保は借入期間の面で、投資対象が大型株中心の海外投資家は銘柄の幅の面で、借り手のニーズを十分に満たしていなかった。この点、年金パッシブ運用は、幅広く保有する銘柄を、ノンコーラブル(決算期末に返済を要求されない)で貸付け可能な上、貸付期間中に売却することが原則ないため、貸株取引に適した特性を有している。

さらに、品貸料収入によって期待される運用成果向上がたとえ数bp程度だとしても、そもそもの運用報酬料率が低いパッシブ運用のコストを完全にカバーできる場合もあるだろう。厳しい運用環境が続く中、既存の投資政策を変えずに、保有資産を有効活用して、運用成果の向上(コスト削減)が図れれば幸いである。

もっとも、品貸料収入の獲得には、貸株取引の安全性を十分に確保しながら、保有株式の稼働率(貸付量・貸付期間で決まる)上昇が必要である。「取引相手の選別とネットワーク構築」「担保の授受・管理と現金担保の運用」「貸し出し可能資産の見極めとポジション管理」など、貸株取引参加者として相応のスキルと経験が求められる。

実際に貸株取引を行うには、例えば、(1)貸株取引が予め組み込まれた商品(年金信託合同口、生保特別勘定など)の選択、(2)投資顧問運用などの資産管理(年金特金契約)において、貸株サービスの特約付加、(3)資産管理業務の付加サービスとして貸株を提供するマスタートラストの利用、といったスキームを通じて、取引に参加するのが一般的である。

運用成果を底上げして受託資産獲得競争に勝つためや、資産管理機関がサービスの質的向上を図るために、貸株サービスの提供が不可欠となっている。さらに、貸株取引を代行する契約では品貸料収入の一部が自身の取り分となるため、多くの機関が積極的に貸株業務に取り組んでいる側面もある。

ところで、年金資産は、貸し手としてだけでなく、間接的にも貸株市場と関わっている(図表2)。運用機関のバスケット買い注文に、証券会社が自己勘定で対応可能なのは、不足する銘柄を貸株市場で調達できるからである。また、伝統的な資産クラスのパフォーマンスが低迷する中、オルタナティブ投資への関心が高まっているが、ヘッジファンドのアービトラージ、ロング・ショート、ショートセリング戦略などにも、貸株市場は不可欠である。

   
図表2
年金基金と貸株市場の関係
   

このように身近な存在となった貸株取引は、効率的な年金運用を実現する一つの方策として認識しておく必要はあるだろう。もちろん、トータルな運用成果こそが重要であり、貸株取引の仕組みと契約内容を十分理解し、取引相手の信用リスクにより運用資産が毀損する危険性、貸付が制約となって本来の運用に支障が生じる可能性、決算期をまたぐ貸株時に議決権が行使できない問題などを考慮した上で、本来の運用政策に齟齬をきたさない範囲での活用を検討すべきである。


 

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